真面目で実直。注目の「森島酒造」

「森嶋」は令和元年より「大観」から切り替わった新銘柄。酒質は大観時代から良いものでしたが、2019年に森嶋ブランドを立ち上げてから大ブレイク。酒質の向上も目覚ましい注目銘柄です。その理由は6代目・森嶋正一郎さんの真面目な性格と実直な設備投資にありました。

茨城県で最も海に近い蔵

茨城県日立市にある森島酒造は、明治2年創業。140年の歴史を持つ酒蔵です。現在は6代目の森嶋正一郎専務が蔵元杜氏として酒造りを担っています。 蔵から海まではわずか数十メートル。目の前が海という、国内でも有数の海に近い場所に蔵があり、波の音や海風を感じる環境で酒造りが行われています。


▲蔵の裏門から歩いて15秒の場所。蔵の庭にいても波の音が聞こえるほど、海に近い場所にあります。

また、付近には道の駅「おさかなセンター」があり、魚介類が有名な土地柄。茨城県沖から福島県沖にかけての海域の呼称である「常磐沖(じょうばんおき)」は、寒流と暖流が交わることからアンコウ、メヒカリ、伊勢海老、ヒラメ、鯖、水タコなど豊富な魚介類が獲れる場所です。

酒質向上のきっかけ

「森嶋」の誕生には並々ならぬ想いがありました。

大きなきっかけとなったのが、2011年の東日本大震災。津波の浸水被害からは免れたものの、敷地内を横断する激しい地割れが起こり、大谷石蔵の壁に大きな亀裂が入りました。石蔵の完全修復は難しく移転や廃業も考えましたが、悩んだ末にできる限りの修理を施し、この地で酒づくりを継続することを決意したのです。

そこで思い至ったのが、蔵の代表銘柄「大観」に並ぶ新たな銘柄を生み出すこと。茨城県出身者として初の南部杜氏資格に合格を果たした森嶋専務は、大学で学んだ醸造の知識や修行時代に習得した技術をもとに、新たな酒づくりを本格的にスタート。「とにかく旨い酒をつくりたい」と試行錯誤を繰り返しますが、なかなか納得する味をつくれない日々が続いていました。

そんな時に出会ったのが、業界を牽引する勝木慶一郎先生。出品数世界最多の日本酒コンクールSAKE COMPETITIONで紹介してもらったのが始まりです。

多くの酒蔵が師事する勝木先生。最初は「どういう酒が造りたいの?」など質問を投げかけられながら、時には当時勝木先生がいた佐賀県まで足を運び、粘り強く頼み込んだ末師事することを認められました。その後は、電話やメールで細かく報告をしながら、現在も指導を受けています。


▲一番最初にした設備投資。ヤブタを冷蔵することで格段に酒質が上がりました。


▲勝木チルドレンの証、四角い甑。森嶋専務曰く、蒸米は野球に例えるとピッチャー。蒸米がないと始まらないからだそうです。この甑を使用することで蒸し上がりがパラパラになり、格段に麹米のレベルが上がったそうです。


▲一番の設備投資はやっぱりサーマルタンク。現在16本ものサーマルを所有しており、絞ったあとの受けもサーマルタンクを使用しているので、品質が格段に良くなりました。

「森嶋」の目指す味わい

海に近いと聞くと仕込み水が心配ですが、森島酒造では敷地内の深井戸から汲み上げた阿武隈山系の中硬水を仕込み水として使用。最近流行の麹菌ではなく、オールディな麹菌と9号酵母でモダンでキレあるお酒を造っています。

森嶋は実は純米大吟醸でも糖度1~1.3ほどと大変低く、酸度は1.7~1.9と比較的高めの数値。そのため甘味が少なく、爽やかなキレのある味わいになります。また、苦みや渋みが目立たないようしっかりと調整しながら醸しており、「艶のある味わい」を目指しています。


▲常磐沖の魚貝類と森嶋。

また、「森嶋」は魚貝類との相性が非常に良いのも特徴。この日は常磐沖で獲れた魚をメインに、アンコウの肝和え、カレイの煮つけ、メヒカリの唐揚げなどいろいろと合わせてみました。特にアンコウとひたち錦辛口、鮪と雄町、烏賊と山田錦は魚の生臭みが全く出ず、料理が進む素晴らしい相性でした。

写真で紹介したもの以外にも、洗米機や麹室、保管のための大型冷蔵庫などさまざまな設備投資を行ってきた森嶋酒造。キレと透明感のある綺麗な酒質には、これからも磨きがかかりそうです。皆さまにもぜひ飲んでいただきたい、イチ押しの注目銘柄です。

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