「土」が違えば「味」が変わる!?「松の司 土壌別仕込」で確かめる

普段、何気なく口にしている日本酒。お酒好きな方なら、「山田錦」や「雄町」といった品種別に飲み比べてきた経験から、「この酒米が好き!」というお気に入りがあるのではないでしょうか。気になる酒米の「品種」。ですがこれまで、その「産地」が注目されることは多くありませんでした。

一方ワインの世界では、品種に加えて「産地」も重要な指標のひとつ。同じ品種を使っていても、気候や立地、土の性質など、「どんな環境で栽培されたか」によってワインの味わいが異なります。それによってワインの値段も変わってくるのです。

● 品種の次は、「産地」にこだわる

実の潰れや鮮度の落ちが品質に直結するワインと違い、日本酒作りで使用する「酒米」は長距離輸送にも耐えられます。それは私たちの実生活の中で、いろんな産地のお米を食べ比べるのと同じ。蔵元も、全国から酒米を買ってお酒造りに使うことができます。ただ、酒米も農作物。例えば同じ「山田錦の1等米」でも、産地によって色味が違い、硬さも変わってくるのです。

ここに着目しお酒で表現できないかと考えたのが、滋賀県で「松の司」を醸す松瀬酒造です。杜氏を務める石田さんは、入社したての精米担当だった頃、同じ品種でも産地によって精米時間が1~2時間変わることに気づきました。それをお酒にしたときも、味わいに違いが出ることをなんとなく感じていたそうです。しかしそれを表現するには、実に30年もの長い年月がかかりました。

● 努力の30年

松瀬酒造ではこれまで地域の農家と手を取り合い、地元・竜王産山田錦の品質向上に取り組んできました。目標は、毎年最高品質の山田錦を生み出す兵庫県東条「特A」地区。全ての蔵元が手に入れられるとは限らない、最高ランクの酒米です。

収穫時期まで稲穂が倒れないように、米一粒一粒が大きくなるように。約30年もの努力が実り、ここ数年は東条「特A」地区に勝るとも劣らない品質の山田錦が収穫できるようになりました。

▲竜王町の酒米

そうして誕生したのが、今回の「松の司 土壌別仕込」シリーズ。農家さんと田んぼをまわり、竜王町での最適な栽培方法を探る中で、東条「特A」地区との土壌の違いに気づいたことから生まれたお酒です。

● 「土」が違えば「味」が変わる

東条「特A」地区は、おおむね谷あいの粘土質土壌に集中しており、その見た目も青みがかっています。その田んぼ保肥力と保水力が高く、しっかりした田植え靴でないと足が入って抜けなくなるほど。

それに対して竜王町は、東西の山に囲まれた盆地になっており、その中でも平地、山裾、河川の側と田んぼの立地はさまざま。さらに、土壌的にも粘土、山土、砂や礫(レキ)、またそれらの混合土壌と、土の色も質感も多岐にわたります。水や肥料の持ちが良い粘土質の土壌で育つ米は、ふくよかでたくましく。水はけが良い砂礫混じりの山土の土壌で育つ米は、硬く繊細でシャープに。その混合度合いによる土壌の特性がお米の質に現れ、最終的なお酒の味わいに影響します。

今回はじめて「土壌別」に仕込んだのは、田んぼの立地も土壌も異なる4つの地域です。

・橋本(はしもと)

土壌:粘土質と川砂の混合土壌。水分や肥料の持ちが良い粘土質土壌で育った山田錦は、柔らかな重量感が特徴。その影響から、お酒も優しい密度感と伸びのある味わいに。

味わい:バナナのような穏やかで上品な香りがあり、滑らかで柔らかな旨味がじわりと感じられます。

・山面(やまづら)

土壌:竜王町の北西部、鏡山のすそから善光寺川に至る地区。乾くと白っぽく、パラパラと崩れる軽い質感の川砂と砂礫土壌。硬質で締まった質感の山田錦が生まれました。

味わい:香りは柔らかく、フルーツのようなニュアンス。味わいは最も硬くミネラル感があり、苦みで引き締まる大人な1本です。

・弓削(ゆげ)

土壌:松瀬酒造が位置する弓削地区は、3つの細い河川が交わり、近隣の土地よりも低い場所にあります。粘土質に砂を含む土壌ながら、川の砂利など鉱物的なニュアンスも相まって骨格のしっかりした酒質です。

味わい:メロンのような香りに青みも感じられ、爽やかな印象。ふわりと軽やかな飲み口で、優しい余韻が続きます。

・駕輿丁(かよちょう)

土壌:黒く粘り気のある粘土質土壌。水や肥料を長時間保持することから、ふくよかで柔らかく詰まった質感のお米が育ちます。お酒もリッチで丸く、膨らみのある味わいに仕上がっています。

味わい:香りは最も華やかでボリューム感たっぷり。滑らかで力強い旨味が後半まで続き、最後までしっかりとしたエネルギーが感じられる力強い1本です。

● 土地の違いを味わって

日本酒業界で初めてのこの取り組み。30年の月日を経てようやく誕生した「土壌別仕込」はまさに、生まれた場所や育った環境が異なる人たちに、同じ服を着せてみるようなものです。

わたしもこの4種類を試飲させていただきましたが、香りや味わいの印象は全くの別物。同じ「山田錦」でも、土壌が違うだけでここまで変わるのかと驚きました。みなさんも、田んぼの風景や土壌の違い、そして竜王町で稲穂を育てた農家さんの顔を思い浮かべながら、その味わいの違いを体感してみてはいかがでしょうか。

オンライン店では一足先に、この「松の司 土壌別仕込」の飲み比べができる4本セットを販売させて頂けることになりました!すでに発売となっている「橋本」「山面」、8月に入荷したばかりの「弓削」、そしてこれから発売となる「駕輿丁」の貴重なセットです。


松の司 土壌別仕込 飲み比べセット 720ml 4本

    ▼この蔵のお酒をもっとみる