「みむろ杉・今西」今西酒造を訪ねて

みなさんお久しぶりです。営業部の川嶋です。営業部菅野と合流して訪問した和歌山の平和酒造さん九重雜賀さんに続いて奈良県の今西酒造さんにお邪魔して来ました。

奈良県と言えば京都府に並び、歴史あふれる古都として有名です。今西酒造が酒造りを営む三輪にも、日本最古の神社であり、同時に酒の神様を祀る大神神社(おおみわじんじゃ)があります。さらには、実在する最古の杜氏と言われている高橋活日命(たかはしいくひのみこと)を祀った活日神社(いくひじんじゃ)があるなど、酒にまつわる神様が集う場所となっています。

いざ行かん、酒造りのパワースポット三輪の地へ

奈良駅から桜井線に揺られる事30 分。1時間に2本しか走っていない電車に乗り込み向かうは三輪駅。途中から田園が広がり、のどかな風景が続きます。

三輪駅は無人駅で、多くの乗客はとなりの桜井駅を使用するそうです。駅前には今西酒造が経営しているカフェ三輪座があり、日本酒アイスクリームののぼりがはためいていました。ここから今西酒造までは徒歩5 分ほどです。

まずは神様へご挨拶

蔵を見学する前に、酒の神様にご挨拶をする為に大神神社へ。日本最古の神社に相応しく見所が多く、またとても広いので、今回は「酒」にフォーカスを絞り、案内していただきました。


▲ご祭神の大物主大神が顕現された蛇が酒樽の上に鎮座、その口からお水が出ている手水舎はとても印象的でした。


▲神様のいる場所と人間界の境界で、参拝者が拝礼をする拝殿。こちらの屋根を模して作ったのがはせがわ酒店日本橋店の入り口に飾ってある杉玉の屋根。杉玉も大神神社の物です。


▲大神神社は、蔵元さんや居酒屋さんの軒先でみられる「杉玉」発祥の地です。拝殿を覗けば直径1.7 メートル、重さ250キロの大杉玉が吊るされていました。全国の杉玉のボスですね笑。

大神神社は三輪山自体がご神体であり、三輪山に神様が宿っているため、本殿はないとのことでした。拝殿が設立されたのが1664 年。今西酒造さんが創業1660 年なのでほぼ同時期。大神神社に収めるお神酒も今西酒造さんのお酒です。毎年11 月14 日、酒祭りが行われ、全国の酒蔵、酒販店が結集し、ふるまい酒が振舞われ、拝殿に飾っている大杉玉が新しい、青々とした物に吊るし代えられます。その後、全国の蔵やお店に新しい杉玉が送られます。今では問屋さんや、蔵で杉玉を作っている所もありますが、本来は三輪の上杉で作るのがポイント。三輪山は杉に覆われており、そこに酒と商売の神様の英気が宿っています。それを使って作る杉玉に、商売繁盛、いい酒が出来ますようにと願掛けをします。


▲境内にお供えされている巳(蛇)の好物生卵とお神酒。売店では一緒に販売されていました。


▲万病に効くというご神水が湧きでる薬井戸は実に近代的でした。コップが準備され、ボタンを押すとご神水が出てきます。大きなタンクを持って来て、詰めて持って帰る方も多いそうです。この水は、今西酒造さんの商品「みむろ杉」の仕込み水であり、使用している酒米も、同じ水で育った酒米を使用しています。みむろ杉は全て三輪の土地が育んだ、酒の神様が宿ったもので造ったお酒だと誇らしげにおっしゃっていました。


▲神社の参道に、今西酒造参道店があります。一般の方にもっとみむろ杉を知って貰う為に駅の前、神社の入り口の店は営業を続けているそうです。日本酒アイスを頂きながら蔵に戻りました。

奈良を代表する酒米・露葉風(つゆばかぜ)

蔵に戻り使用している酒米について教えて頂きます。みむろ杉は露葉風と山田錦をメインに使用しています。特に露葉風に関しては、県内で生産しているうちの40%を今西酒造さんで使用しているそうです。よく露葉風は心白が安定しないから酒造りが難しいと言われるそうですが、今西さんは造りのポイントを押えられたとか。ズバリ、ポイントは吸水!露葉風は心白がずれていて、溶けたり溶けなかったりするので、まずは全部小ロットで洗米、吸水させ、きちっと安定させてから次の工程に持っていけば、その問題はクリアできると教えて下さいました。

▲見せて頂いた酒米露葉風。これがみむろ杉に変わるのですね。

さらに今取り組んでいるのが、同じ酒米でも作っている農家さん別に仕込みを分けることです。同じ地区で同じ酒米を栽培していても、育成する農家さんごとに出来上がった酒米は違う特徴を持ちます。特に吸水率に顕著に現れ、どの農家さんが作ったのか考えず、全てまぜこぜにした状態にすると、大きなムラが出てしまうそうです。良い酒造りをする為には、同じ基準の下で仕込んだ方が良いという考えから生まれた取り組みです。ゆくゆくは、どの農家さんで栽培した酒米を使用しているのか、商品に明記したいとおっしゃっていました。

効率なんて関係ない。ひと手間ふた手間かけた造り

今西さんは、酒造りの各工程にどれだけこだわり抜いていくかを大切にしていらっしゃいました。例えば洗米では、1回の洗米を大ロットで行えば、効率はいいですが糠切れが良くないため、1回10kgという小ロットで洗っています。さらにサーマルタンクには、以前はエアシューターを使用して米を入れていましたが、エアシューターは洗浄ができず、雑菌だらけになり、米と一緒に雑菌まで入れてしまう為、3年前に撤廃し、手運びで米を入れています。

しかし、これらの作業は効率が悪いのも事実です。当然、洗米の回数が増え時間がかかりますし、エアシューターを使えば1人で1時間の仕事が、今では4人で3時間もかかっています。ですが、ここでは一切効率は無視。非効率でも各工程のパフォーマンスを最大限上げる事に全力を注ぎます。手間暇をかけ、1つ1つの工程を丁寧に行っていきます。

手間暇をかけるからこそ、そのための人員はきちんと用意されていました。酒造りに必要な人員として100 石に1 人が目安と言われており、800 石だと6~7 人でやるのが一般的だそうです。現在900石を仕込んでいる今西酒造は、12 名体制で酒造りを行っていました。それも丁寧な酒造りにこだわる為です。

惜しまない設備投資

今西さんが蔵に入られて5年。酒質に直結する設備は全て最新のものを導入されていました。


▲写真左のサーマルタンクは昨年3本のところを今年は6本増設し、9本体制に。強い麹を低温で長期発酵させる事により、より透明感を出し、軽やかさを演出できるようになった。仕込み規模を変えず、仕込み本数を増やしていくための措置。写真右が多くの蔵元さんも導入されているウッドソンの洗米機と今回見学の案内をしてくださった今西さん。昨年の洗米回数は約一万回!今年は一万五千回になるであろうとの事。麹米から掛け米まで2人がつきっきりで全て10kg毎に洗米、吸水させる徹底ぶりです。


▲麹室は2 年前に新しくしました。今西さんが中心に管理され、種付け部屋には必ず今西さん、もしくは醸造責任者が入りクオリティーコントロールをしています。室自体は蔵が最大仕込める1500石対応だそうです。ちょうどお伺いした日が室の初仕事だったので、見学させていただけることに。さっきまでほがらかに話されていた今西さんの表情が一気に仕事人の顔に変わりました。


▲こちらがヤブタと呼ばれる搾り機。3度に設定された冷蔵庫に入っています。今西さんが蔵に入る前は外に置いてあり、真っ黒のカビだらけでびっくりしたとか。まずここの設備投資を行いました。ゆくゆくはもう1台、ヤブタと、袋吊をする搾り機を購入したいそうです。

次にする事はスタッフが安全で安心して働ける環境作りだと言います。蔵は築170 年。このご時世だからこそ、震度7の地震 が来ても崩れない様に耐震工事を行っています。この夏、蔵にあるタンクを全て出して床を打ちかえました。また、あちこちに梁を入れ来年は側面をはがして張り替える予定です。目指すは清らかな環境作り。まるで大神神社の様な厳かな空気が流れるような蔵を目指すと意気込んでいました。

今西さんの相棒、契約農家の難波さん

最後に、三輪山の下で契約農家さんに山田錦を作って貰っている田んぼがあり、見学をさせていただくことに。たまたま契約農家の難波さんがいらっしゃり、お会いすることができました。2017年初めて山田錦を作り、直ぐに一等米判定を頂けたとてもセンスのいい造り手さんです。これからも今西さんとタッグを組んで米造りをしてくと意気込んでいらっしゃいました。

▲写真左より、今西さん、営業部菅野、営業部川嶋、難波さん。米を作る農家、酒を醸す蔵元、販売する酒販店、3つのキーがそろった瞬間です。

今西酒造の今後の取り組み

今後どういった取り組みを計画しているのかお伺いすると、契約農家さんだけでなく、ゆくゆくは自社田で米を栽培し仕込んで行く為に、田んぼを取得されたそうです。酒造りだけでなく、酒米のプロになる事で、農家というものを理解し、突っ込んだ話が出来るようになれればとのこと。また、三輪の中で一番いい山田錦が採れる土壌で、最高の農家さんに栽培してもらい、それをみむろ杉のグランクリュ的存在にしていきたいとのことで、これは2 年後をめどに実現したいとおっしゃっていました。

今は他社へ委託している精米も、5 年後をめどに自社精米にしていくそう。車で5 分の所に土地を取得したので、大きな貯蔵用の冷蔵庫と精米機を置く予定だそうです。酒にまつわるストーリーにあふれた地で、地元を大切にし、情熱と信念を持って醸されているのがひしひしと伝わってきました。どんどん洗練されていく「みむろ杉」の根幹に触れられた見学となりました。酒の神様を感じるお酒、是非この機会に飲んでみてください。