「雑賀」九重雜賀を訪ねて

みなさんこんにちは!またまた、はせがわ酒店営業部の菅野です。前回、川嶋と和歌山県の平和酒造さんに行ってまいりましたが、和歌山県にもう1軒、はせがわ酒店と長いお付き合いをさせていただいている蔵元さんがございます。平和酒造さんから車を走らせること約20分、桃の産地で有名な紀の川市桃山町にある九重雜賀(ここのえさいか)さんです。日本酒「雑賀」に馴染みがある方が多いかもしれませんが、九重雜賀といえば、関西屈指のお酢の醸造蔵としても有名!今回は日本酒「雑賀」、食酢「九重酢」、紀州の果実をふんだんに使ったリキュールなど多彩な商品をうみだす九重雜賀さんをばっちりレポートします!

日本酒、食酢両方を生業として醸す唯一の蔵

和歌山県一のお酢の醸造蔵として知られる九重雜賀は1908年、食酢の醸造蔵として創業しました。赤酢の原料は酒粕で「より良い食酢を造るには主原材料である酒粕から造るべき」という考えと「食事に合う日本酒を造りたい」という夢から、1934年に日本酒の醸造も開始しました。同じ蔵元が日本酒も食酢も醸造する蔵は他にありません。雜賀社長から、お酢の醸造蔵は酢酸菌が豊富で、お酢の蔵を見学した後に訪問されることを気にされる蔵元さんも多くいらっしゃるということを伺い、今回平和酒造さんの後にお邪魔させていただきました。和歌山はお寿司発祥の地と言われており、日本有数の食酢消費地でもあります。日本酒「雑賀」は食事と共に飲まれるよう考えて造られており、特にお酢をつかったお料理との相性を考えてつくられている銘柄です。

杜氏の期間雇用廃止から社員主体の酒づくりへ

2017年の「雑賀」の酒質向上には目を見張るものがありました。「山田錦 純米吟醸 雑賀」の素晴らしさにスタッフ一同感動し、「今年の一本」としてタンク1本を頂き、販売させていただきました。

どのように酒質設計を図ったのか楽しみにして伺ったところ、蔵内での大きな変化を教えて下さいました。毎年主に但馬から来られていた季節雇用の杜氏制を廃止し、雜賀社長と日本酒製造課課長児玉さんを中心にして、自分達が目指す酒づくりへの取り組みが始まったそうです。これまでは決して酒造りで失敗をすることのない様、リスク回避の観点からも杜氏に依頼していました。しかし自分たちの求める酒質に近づくためにはリスクを負いながらも挑戦をしなければいけません。及第点ではなくその先を目指す為、蔵元自らが考え挑戦する体制に踏み切ったのが2017年度でした。

酒造りにおいて変更した点は麹づくりと追い水の投入です。今までは、綺麗な酒質を目指していましたが、同時に線の細い味わいになりがちだったため、綺麗な酒質でかつ、しっかりと味を持ったお酒をつくることを目指し、味のよくでる麹を造るようにしました。また、これまでは仕込みの最後に追い水をして味の調整をしていたのを、発酵が活発な仕込みの早い段階から徐々に追い水をしていくように変えました。これらの変更により、今までよりもよい酒質のお酒が仕込めるようになったと教えて頂きました。

酒造りにおいて、絶対に省いてはいけない部分と、変えていく部分とを自分達で判断していくため、まず基本に忠実にということを1番大事に取り組んだ年でした。


▲長年九重雜賀にて日本酒の醸造に携わってきた児玉さん。

食事の初めから終わりまでを意識した酒質設計

日本酒「雑賀」ブランドでは食事と共に楽しんでもらえるように、派手なお酒は造られていません。唯一吟醸香を出している山田錦を使用した純米吟醸、大吟醸、純米大吟醸に関しても1杯での満足度ではなく、食事の流れの中のどこで合わせられるかということを考えながら造られています。実際に食事と合わさせて頂くことができたので、簡単にご紹介します。


<写真左 もずく酢 写真右 やっこ 合わせたお酒:辛口吟醸 雑賀>
▲旨味を出引き出した辛口吟醸はもずく酢の甘味旨味と調和し、切れのスピードもピッタリでした。またやっこは雑賀の海ぽん山ぽんでいただきましたが、お醤油でいただくやっこよりも爽やかにいただけました。

<写真左 卵豆腐と一番出汁のお椀 合わせたお酒:山田錦 大吟醸 雑賀>
▲吟醸香はお椀のアクセントである柚子との相性が抜群。大吟醸でも輪郭は柔らかなので余韻も綺麗にマッチ。
<写真右 南蛮漬け 合わせたお酒:山田錦 大吟醸 雑賀>
▲香りの高さ、甘味とボリュームがぴったり!南蛮の甘酸っぱさが後引くかと思いきや純米吟醸の後味のライトさで綺麗にフィニッシュ。

社員が買いたい商品であり続ける

九重雜賀のお酢は全て保存料、着色料、化学調味料、エキス分を使用していません。決して保存料、化学調味料が悪いと考えているのではありません。それらのおかげで、食品需要が賄えている現状があることも理解した上で、社員が誇りをもって働き、社員が自分の子供に食べさせたいと思うお酢を造ろうとしたところ、この様な会社の方針になったのだといいます。

九重酢は酒粕を原料にして醸造した赤酢です。赤酢の厳密な定義や色の規定はありません。赤酢の赤は酒粕の色のことで、熟成した酒粕は黒くなり昔の人は黒く変色することを“赤くなった”と言ったことから赤酢という名前になったのだと言います。

▲九重酢に使われる5年熟成の酒粕。

九重雜賀の蔵訪問の中で何よりも驚いたのが、日本の大木桶の作り手が2020年で途絶えてしまうというこの時代に、30石もの食酢が大木桶で発酵していたことです。蔵を変えればお酢の味も変わると言われる中、九重雜賀では2回の蔵移転を経験しています。その際も木桶の中の桶付き酢酸菌や酵母達が味を守ってくれ、消費者から味が変わったという指摘は1度も受けなかったと言います。


▲食酢を発酵させている木桶。発酵が盛んな時期は表面を酢酸菌の膜が覆っています。発酵が落ち着くと膜は下方に沈むそう。

木桶は使い続けないと木が乾燥して割れてしまうそうです。中のお酢の湿気が外側から触れても感じることができ、木桶の中に顔を入れると様々な菌や微生物が木桶の中で活発に活動しているのが中の香りや空気からも伝わってきます。木桶は2017年までに、全て大阪の藤井製桶所さんにお願いしメンテナンスを済ませ、新しい桶も2台入れました。150年使い続けられる木桶を造ってしまったから、木桶職人は仕事をなくしてしまったのだという職人さんの言葉は悲しく感じますが、日本の伝統技術と発酵文化は切っても切り離せないものなのだなぁと実感しました。

瓶内二次発酵のスパークリング梅酒開発

美味しいリキュールを造る九重雜賀さんの中でも特に人気のある梅酒ですが、新たな付加価値のある梅酒の開発に取り組んでいます。スパークリングのリキュールは多くのメーカーで造られていますが、他にないこだわりのある商品をお客様に提供すべく、オンリーワンの瓶内発酵のスパークリング梅酒に挑戦しています。以前から発売はしていたのですが、梅酒の瓶内発酵はガス圧の調整が非常に難しく、スクリュー式のキャップで発売したところ、液漏れを起こし、気密性の高い王冠タイプのキャップにしたところ、滅多に破裂することのないシャンパーニュボトルが粉々に破裂してしまったなど、トラブル続きで非常に苦労をされていました。この商品の改良に費やしている歳月は何と4年。現在やっとガス圧のコントロールができる様になってきたと話すリキュール製造課長の上田さん。現在試験中で発売はまだまだ先になりそうですが、これだけ苦労を重ねているにも関わらず、商品開発の1つ1つの試行錯誤を生き生きと話してくださる姿がとても印象に残りました。

▲リキュール製造課長の上田さん。

今回は日本の伝統文化、発酵文化、食文化の魅力が思いっきりつまった蔵訪問でした。そしてはせがわ酒店で扱っている日本酒や発酵食品は日本の伝統文化としての価値もきちんと伝えていかなければいけないなと気が引き締まりました!!さて、食前の梅酒から、食中の日本酒、料理の調味料と、九重雜賀のフルコースで今晩も抜かりなく復習復習♪♪