「福祝」藤平酒造 を訪ねて

はせがわ酒店オンライン店の池辺です。今回は名水の郷で酒造りを営む千葉県「藤平酒造」にお伺いしてきました。あいにくの雨模様の中でしたが黙々と作業に集中する蔵の方達の姿がとても印象的でした。美味しいお酒には良い水の存在が欠かせません。藤平酒造のある、千葉県君津市久留里では街を歩けば、こんこんと湧き出る井戸がいたる所に見られます。「平成の名水百選」にも選ばれたその湧水を求め、地元の方をはじめ県外からも汲みに訪れる人達が絶えません。古くは城下町として栄え、豊富な水に加えて稲作が盛んであった事から、現在もこの小さな街で4蔵が酒造りを営んでいます。

藤平酒造では20年前より跡継ぎの兄弟が中心となって「福祝」を醸してきました。蔵を案内して下さったのは、優しい話し方と笑顔が素敵な藤平淳三常務。酒造りの要である麹造りを担当しています。福祝では「山田錦」「雄町」を初め、各地の様々な酒米でお酒を仕込みますが、近年では北海道産のお米、「彗星」や「きたしずく」も使用しています。少しずつ知られるようになってきてはいますが、まだまだ珍しいこの2つの酒米に対して、淳三さんは「固めだけど溶けにくいので綺麗な味わいを表現しやすいです。その中でも彗星は味があり、きたしずくはキレよく仕上がる。さらに秋になっても味が伸びて、ダレにくい印象を持っています。久留里の水は発酵力の強い中硬水なので、硬めの米質には相性が良いのかもしれませんね。」と仰っていました。

「福祝」の酒造りで特に大事にしているのは「洗米」だそうで、今、酒造りでは主流となっているウッドソン製の洗米機と特製のシャワー(十四代の高木酒造考案!)でムラ無く仕上げます。現在の蔵は大正時代に建てられたものですが、内部には工夫を凝らしています。例えば醪を置くスペースは独立して仕切られており、空調で冷やされています。その為、気温があまり下がらない地域ながら、低温でゆっくりと発酵させる事が可能です。そのおかげで旨味が感じられながら綺麗でキレの良い酒にする事が出来ます。また以前は、搾りの際に槽(ふね)を用いていましたが、現在はヤブタを使い、お酒にフレッシュ感を残しています。

そしてさらなる品質アップの為、徐々に設備投資も進めていくそうです。現在、米を蒸す釜はバーナーですが、コントロールのしやすいボイラーに変える予定で、さらに水気のたまりやすい甑(こしき)の底にはステンレスの網を設置する事で理想的な蒸し上がりを狙います。また、火入れは半切り桶に瓶を並べて行っていますが、ケースごと作業が進められるよう特製のラインを設置するそう。

今回お話を聞く中で、「酒造りは本当に大変な事ばかりです。だけど品質の為にはそれが必要ですから」と仰るシーンがありました。気負わずも強い意志を感じさせるその言葉に、蔵元の酒造りに向き合う真摯な姿勢と、造り手としての自信を感じました。久留里の名水を武器に、酒質向上に余念の無い藤平兄弟が醸す「福祝」の動きにこれから益々目が離せなくなりそうです!


(左から製造統括 藤平典久 専務、麹師 藤平淳三 常務)